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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)239号 判決 1974年4月30日

控訴人

井村朔郎

被控訴人

江東ダイハツ自動車株式会社

右代表者

石川暁平

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、原判決主文第一項2記載の金五万五、七七〇円に対する昭和四八年二月一日以降支払いずみに至るまで一日四〇九円の割合による金員、金一六万七、三一〇円及びこれに対する昭和四七年三月一五日以降支払いずみに至るまで一日三七二円の割合による金員を各支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決並びに判決中金員支払を命ずる部分につき仮執行の宣言を求め被控訴人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次に附加し、改めるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人は、次のように述べた。

1  控訴人は、被控訴人に対し、請求原因5(二)記載の附加金五万五、七七〇円に対する原判決正本が被控訴人に送達された日の翌日である昭和四八年二月一日以降支払いずみに至るまで労働基準法三七条一項に従い控訴人の平均賃金一日分一、八五九円の二割二分にあたる一日四〇九円の割合による割増延滞金員を支払え。

2  控訴人は、被控訴人に対し請求原因5(三)記載の慰藉料一六万七、三一〇円に対する控訴人が被控訴人から解雇通告書を受け取つた日の翌日である同年三月一五日以降支払いずみに至るまで労働基準法三七条一項に従い控訴人の平均賃金一日分一、八五九円の二割にあたる一日三七二円の割合による割増延滞金員を支払え。

二  証拠<省略>

理由

一当裁判所は、原審の排斥した控訴人の請求部分及び当審において拡張された控訴人の請求部分をいずれも失当であるとするものであつて、その事実認定及びこれに伴う判断は、次に改めるほか、原判決がその理由第一、二項に説示するところと同一であるから、その記載を引用する。

1  <証拠の標目の訂正につき省略>

2  原判決六枚目―記録一一丁―裏七行目「しかし、」から原判決七枚目―記録一二丁―表一行目までを「しかし、附加金は、使用者が労基法の規定に違反して同法によつて課せられた賃金その他の金銭給付の義務を履行しなかつたとき使用者に対して課せられる制裁であつて、使用者の右金銭給付義務を履行させるため、これに附随して、労働者の請求により裁判所が支払を命ずる加重金であり、制裁としては公法上のものであつても、その加重金に対する遅延賠償については債務不履行の法理が適用されると解するのが相当である。ところで、債務不履行の法理によれば金銭債務の履行遅延による損害賠償として年五分の法定利率による遅延金の支払を請求し得る旨の民法の規定(四一五条、四一九条一項、四〇四条)は、利息、附加金等主債務に附随して発生、移転、消滅する附随債務それ自体の履行遅滞には適用されないと解される。してみれば、附加金の支払義務は、その支払を命ずる裁判の確定により始めて生じ、仮にその遅滞が生じても、これに対しては、遅延損害金は発生しないと解するのが相当である。よつて、控訴人の事実摘示一1記載の請求は、全部失当である。」と改める。

3  <証拠の標目訂正部分は省略>原判決八枚目―記録一三丁―表九行目末尾「理由がない。」を「失当であり、その正当なことを前提とする控訴人の事実摘示一2記載の請求も全部失当である。」と改める。

二以上の理由により、控訴人の請求の一部を棄却した原判決は相当であつて、これに対する本件控訴及び当審における拡張部分についての控訴人の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(吉岡進 園部秀信 兼子徹夫)

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